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東京高等裁判所 昭和33年(く)28号 決定

少年 O(昭和一三、五、二二生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は第一、警察署では少年Oに対し、犯罪の容疑にて逮捕せんとし、少年の氏名、生年月日、本籍を記載し写真迄載せた貼紙をした。第二、この度の審判に際し、担当裁判官は少年の犯罪を勝手に悪く解釈し、頭から少年を威し少年に弁明の余地を与えず、且つ少年の父母の悪口を他の人達と話合い、少年の顔の傷に対し思い遺りがなく、特別少年院送致に付いても自信がなかつた。第三、少年は非常に悔悟して居る、少年が送致された少年院は少年を保護するところと云われるが、決して教育や保護の出来る処ではないから一日も早く少年を親許へ帰して載きたい。以上により原決定の取消を求むる為め本件抗告に及んだとの趣旨に解せられる。

よつて記録を精査するに、右第一の点については所論のとおり所轄警察署に於て少年を強盗傷人罪の容疑にて逮捕せんとし、其の罪名、氏名、生年月日、写真を載せたお願いと題する書面を貼り紙し手配したことが窺われるが、右は同署として犯罪容疑者が姿を晦ました為め、之が逮捕の必要上已むを得ざるに出たものであつて、何等決定に影響を及ぼす法令違反の廉があるとは思われない。

右第二の点については記録添付の審判調書によれば担当裁判官は非行事実に対する少年の弁明や陳述、非行歴其の他に対する少年の陳述、保護者たる父及び母の陳述、並びに叔父及び担当保護司の陳述をも詳細に聴いて居るのであつて、記録を調べてみても担当裁判官の本件の取扱につき、所論のような点があつたとの事跡は発見出来ず決定に影響を及ぼす法令違反があつたとは考えられない。

右第三点については一件記録に現われた各証拠を検討するときは、原決定記載の保護事件の犯罪事実はこれを肯認するに足り記録に現われた少年の年齢、性格、生育歴、生活環境等諸般の事情をも併せて綜合勘案するときには、右少年を特別少年院に送致した原決定の処分は已むを得ないものと認められ所論の点を少年の利益に考慮してみても、抗告人主張のような著しく不当の処分とは考えられない。

以上の次第であつて、本件抗告はその理由がないから、少年法第三十三条第一項少年審判規則第五十条によりこれを棄却することとし主文のとおり決定する。

(裁判長判事 中西要一 判事 山田要治 判事 鈴木良一)

別紙(原審の保護処分決定)

○主文および理由

主文

少年を特別少年院に送致する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は、

1 Sと共謀して、昭和三二年二月一五日午後八時三〇分頃、東京都新宿区国電新宿駅附近から同新大久保駅附近までの間を進行中の電車内で、T外二名の者に対してちよつとしたことから因縁をつけ、同人等の顔面を手拳でなぐり更に足でける等の暴行を加え、因つて同人等に対して全治一週間を要する打撲傷および挫傷の傷害を負わせ、

2 SおよびUと共謀して、同日同時刻頃、同区国電高田馬場駅から同人等を同区諏訪町二五〇番地および二四三番地附近の暗がりに連れて行つたうえ、同所附近で、同人等に対して「金を出せ。オーバーをぬげ。手袋をみせろ。」等と申向けて金品の要求をなし、もし同人等がこれに応じないときは同人等に対してどんな危害を加えるかもしれないような勢を示して同人等を脅迫し、因つて同人等からY所有の現金五〇〇円、革手袋一双(時価三〇〇円相当)オーバーコート一着(時価五、〇〇〇円相当)およびT所有のオーバーコート一着(時価五、〇〇〇円相当)を交付させてこれを喝取し、

たものである。

(保護処分に付する理由の要旨)

少年は、当裁判所で昭和二九年一二月二三日、窃盗保護事件により不開始決定を、昭和三〇年三月二〇日暴行恐喝保護事件で不処分決定を、昭和三一年一一月七日脅迫保護事件で保護観察決定を、昭和三三年二月一〇日傷害保護事件で不処分決定を受けている。(事件受理回数は七回)少年の上記各非行は、上記各窃盗を除いては本件を含めていずれも同種又は類似の犯行で、粗暴的なものであり、本件非行は、上記昭和三三年二月一〇日の不処分決定(昭和三一年一一月七日言渡された保護観察決定を継続するため不処分となる)を受けて僅か五日後に行われおり、殊に1の非行は、少年が主動的立場にあつたものであるから、少年の反社会性は高度ですでに犯罪的傾向を有していると認めることができる。ところで少年の反社会性は、性格の面では自己顕示性、即行性、無力性が顕著であり、環境の面では交友関係が悪く且つ保護者である母親が盲愛であることがその原因をなしている。したがつて少年の反社会性を直すためにはこの両原因を除かなくてはならないが、そのためには少年を一定の施設に収容してその性格を矯正しその間に環境を調整しなければならない。そこで少年の反社会性の程度、年令そのほか色々な事情を考え合せて主文のとおり決定する。

(適用法令)

刑法第二〇四条(1の事実について)第二四九条第一項(2の事実について)第六〇条少年法第二四条第一項第三号

(昭和三三年三月二五日東京家庭裁判所裁判官 石崎四郎)

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